研究概要 |
抜歯によって得られた12才から65才までの正常なヒトの歯10本を対象に, 自然蛍光を測定した. 励起は365nmで行った. スペクトルだけでなく, 蛍光偏光度, 蛍光寿命も測定できる専用の顕微測光システムを製作した. 蛍光ピーク波長はエナメル質では460nm, デンチン部では430nmであった. それぞれ歯の構成モデル物質であるハイドロキシアパタイト(HOAp)およびピリジノリン(PY)によく似た蛍光スペクトルを示す. 歯の蛍光強度は年齢とともに増大した. また歯切片を180°Cに加熱すると時間とともに蛍光強度が増大した. このことからタンパク質の何らかの変化が加齢によって進み, これが蛍光に反映されたと推察できる. 歯組織中で蛍光強度分布は特に一定の傾向を示さない. しかし偏光度は歯冠より歯根部へ行くほど増大した. また歯切片を乾燥させると偏光度は小さくなった. 時間分解蛍光測光によれば, 蛍光寿命はいずれの部位においても6〜7n秒であり, 2倍以上の偏光度の変化をクエンチング現象だけでは説明できない. 蛍光分子の部位的な量差によっても蛍光強度はかわるが, 蛍光分子自体の高次構造やこれをとり囲む環境が蛍光特性にあらわれている点が重要な知見である. この解析にはモデル物質との対比が必要であるが, PYとHOAPの蛍光減衰カーブが低強度のため得られなかった. 今後の装置の改善を要する. このように蛍光の強度, 偏光, 寿命を合わせて測定することで, 歯の質的変化を伴うと思われる加齢, 病変などの診断に応用できると考えられる. 現在, 古人骨より採取した歯の蛍光特性を調査している. 以上の研究結果の一部を別記論文中に報告した.
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