研究概要 |
半導体レーザーは, 動作温度を変えることによって発振周波数をかなり広い範囲にわたって掃引できるので, 分光測定の光源として重要である. しかしながら, 温度掃引を再現性良く繰り返し行うことは極めてむずかしい. そのため, 分光測定を反復行い信号平均処理によってSN比の向上をはかることは従来は不可能であった. 本研究では, 半導体レーザーを定電流動作させると, 動作温度の変化はレーザー端子電圧の変化となって表れることに着眼し, 端子電圧を周波数の精密なモニターとして利用できることを実験的に確認した. そして, 測定スペクトルをレーザー端子電圧の関数として記録し平均処理のできる分光計を試作し, 良好な結果を得た. まず, 半導体レーザーを一定電流で動作させ, 端子電圧と発振周波数の関係を精密に測定しその再現性を調べた. その結果, 室温が変化すると, レーザー素子内の熱起電力の変化と, レーザーに電流を供給する電源コードの抵抗変化が, 僅かながら端子電圧の変動を生じることが判明した. そこで, 両者の影響が互いに相殺するように対策を講じたところ, 一定端子電圧に対する周波数の再現性は±350MHzまで改善された. 次に, 動作温度を自動的に繰り返し変化させ, その間, 端子電圧が一定ステップ変化するごとにスペクトル信号を読み取り, 計算機で平均処理を行えるような分光システムを構成した. その結果, 予想通り, 測定回数の増加と共に得られるスペクトルのSN比は向上し, この新方式の分光計の有用性が確認された. 現在, この分光計を用いて, 種々の分子の高感度測定を行っている. なお, 端子電圧が一定になるように動作温度を制御することにより, 半導体レーザーの周波数を簡便に安定化できることもわかった.
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