切取り厚さが極めて小さくなる超精密切削加工においては、工作機械が理想的な運動をしても、工具が実際に工作物を削り取る有効切取り厚さは工具刃先で測定される公称切取厚さとは一致しなくなるため、ある限界の切取り厚さ(最小切取り厚さ)以下では切くずの排出が不安定になり、正常な切削が行われなくなる。本研究は最小切取り厚さに及ぼす工具切刃の微視的性状および被削材の特性の影響を明らかにし、切削加工における切削現象の制御限界および理想的な切削工具の必要条件のひとつを明確にしようとするもので、以下の研究成果を得た。 1.最小切取り厚さがnmレベルになると予想される、超精密切削実験を行うための極めて高い運動精度を持つ極微小切削実験装置を設計・製作した。主軸に静圧空気軸受を、送り装置に油静圧スライドを用い、弾性ヒンジとピエゾ素子を利用した微小切込装置を持つ本装置は、高い剛性とnm台の運動精度再現性を示した。 2.上記装置による切削実験の結果、工具切刃の微視的性状が最小切取り厚さに大きく影響し、特に、切刃稜丸味半径の絶対値が小さいこと、また、有効切刃長さにわたる切刃稜丸味の一様性が高いことが最小切取厚さを小さくする重要な条件であることを明らかにした。 3.実験的に解明することが困難である極微小切削における切刃近傍の被削材変形挙動の第一近似として、有限要素法を用いて、丸味を持つ切刃稜が被削材に押しつけられた時の切くず分離点位置を解析的に推定することを試みた。その結果、極微小切削における切取り厚さが切刃稜丸味半径の約0.7程度になると被削材は工具逃げ面にもぐり込み、切くずを排出することが出来なくなること、工具・被削材界面の親和力が高くなると最小切取り厚さが大きくなることを明らかにした。
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