研究概要 |
本研究は電界イオン顕微鏡(FIM)における高電界の作用に着目し, 電界刺激エキソ電子放射(FSEE)と光刺激エキソ電子放射(PSEE)について研究を行ったものである. 特に, 高純度Al(99.9999%, 6N)にFIMと同程度の電界(10^9v/m)を印加ることによって, HibbertとGoodmanによって1985年に提唱されながら金属材料では未だ実験的確証の行われていなかったFSEEの観測に世界に先駆け成功することができた. すなわち, 9N-Alからのフヘールドエミッションが起る直前の電界強度においてエキソ電子トラップ準位からの電子放射ピークが認められた. また, このピークはPSEEの場合と同様なストレージ効果を示すことから, FSEEにおいてもPSEEと同様に励起確率βと放出確率αをもつ二過程モデルが適用でき, さらにその励起確率の値がPSEEの場合に比べて一桁大きいことから, FSEEにおけるトラップ準位はPSEEの場合深い3.8eV(真空準位から)に存在するものと解析できた. これらの結果と電荷重畳法を用いた電界計算の結果から, FSEEの機構は現在までに提唱されていたショットキー効果によるものではなく, トンネル効果によるものであることが明らかとなった. また, PSEEでは種々のAl試料を用い, 試料温度をFIM用コールドフィンガーによって液体窒素温度から室温まで変化させ, PSEEにおけるストレージ効果を測定した. アレニウスプロットを適用することにより, Alのエキソ電子のトラップ準位が真空準位から約3.6eVの負荷さにも存在すること, さらにフェルミ準位からトラップ準位への励起は熱励起が支配的であることが明らかとなった. FIMによるエキソ電子放射サイトの同定は困難を極めたが, 現段階では表面に顔を出した転位のコアへの気体吸着が一番可能性の高いエミッションサイトであることが判った.
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