研究概要 |
非線形光学効果を有する有機薄膜を作成するために, LB法を用いた薄膜作成技術の開発に関する研究を行った. 籏野がフタロシアニン試料を提供し, 宮野が同試料及びジアセチレンのLB膜を作成, 稲場が非線形光学定数の測定を担当した. フタロシアニンについては, t-Butylのmono及びtetra置換体に関して, 予備実験として凝集力の違いによる成膜状況の差を検討したが, いずれも高い剛性率をもった密な膜になり顕著な差はなかった. 水平付着法及び移動側壁法によって作成したLB膜をSEM観察したところ, 10^2〜10^3〓の大きさの統計的に分布した島状構造が見られ, うつしとりの過程で分子の再凝集が生じていると観測された. この構造欠陥は, 色素系分子に共通する強い分子間凝集力によるものであり, これを克服する方法は今後の研究の重要な課題である. ポリジアセチレンについては, 蛍光顕微鏡用の水槽を用いたその場観察により, モノマー膜において加熱による分子再配列が効果的に起こることを見出した. 加熱時間・温度・圧力の三変数を詳しく調べ, 最適条件を決定し, 数mm角の分子鎖のそろった高配向LB膜を再現性よく得た. このLB膜は単層でありながら, 主鎖方向の吸光度4.3×10^<-2>二色比130と, 単結晶の一層を切り出して来たのと同様の光学的性質をもっていることが解った. この非線形光学定数を測定し, 主鎖方向のX^<(3)>はバルク結晶と同程度の値を得またその異方性(〜cos^6Θ)をLB膜で初めて確認した. さらに, これまで知られていなかった大きな二次の非線形性が観測された. 側鎖の電子的影響は殆ど無いと予想されることから, 主鎖は反転対称をもつはずであるが, 欠陥の存在によってこの対称性が破られたものと考えられる. 光学非線形性をもつ有機薄膜を設計する上で, 分子自身の対称性のみならず, その集合形態も重要であることを示している.
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