研究概要 |
軸不斉ビアリール化合物の示す高い立体識別能を利用し, 光学異性体を識別するための不斉誘導化剤を開拓することを試み, 以下の成果を得た. 1.すでに我々は軸不斉2-メトキシー1, 1´-ビナフチルー2´-カルボン酸(MBCA)がアルコール, アミン類の不斉識別剤として優れた性能を有することを明らかにしてきた. そこで, 本研究ではMBCAを数十グラムスケールで合成する方法を確立した. 従来, MBCAは不斉なアルコール(例えばl-メントール)とのエステルジアステレオマーとして, カラムクロマトグラフィーにより光学分割を行ってきた. 今回, 新たに安価な1-フェニルエチルアミドとすることにより, 再結晶で光学分割できることを見い出した. また, 光学分割したアミドより, ラセミ化することなく軸不斉MBCAを再生する方法も確立した. 2.軸不斉MBCAと種々の部分光学活性アルコール, アミンよりエステル, アミドジアステレオマー混合物を調整した. これらのジアステレオマーはシリカゲルカラムによる順相系高速液体クロマトグラフィーにより, 良好に分離することができた. また, 溶出順序とアルコール, アミンの立体構造との間には一定の規則性があることが分った. これより, 軸不斉MBCAを不斉誘導化剤として, 光学活性アルコール, アミン類の光学純度と絶対配置が決定できることが明らかとなった. 3.上記2の高速液体クロマトグラフィーに於るMBCAによるアルコール, アミン類の不斉識別機構を明らかにするため, MBCAと1-フェニルエチルアミンとから生成するアミドのX線結晶構造解析を行った. これによれば, シタカゲル表面へ2-位のメトキシル基とアミドカルボニル酸素とで吸着する際の立体的な相互作用が不斉識別の主要な因子であることが分った. 今後はMBCAをシリカゲルに化学結合した不斉な充填剤を調整し, 不斉カラムによる光学異性体の直接分割への応用が期待される.
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