研究概要 |
モル吸光係数10^5台のセンシング機能を有する呈色試薬の開発を目的として、一連のヒドラゾン化合物の合成を行った。母体となるヒドラゾンとしては、簡単な分子構造を有する2-ピリジンカルバルデヒド=2-ピルジルヒドラゾン(PAPH)に着目し、PAPHに種々の置換基を導入したヒドラゾンを合成し、これらと金属イオンとの錯形成反応並びに発色機構の解明を行った。 1 PAPHのアルデヒド側のピリジン環を固定し、ヒドラジン側のピリジン環の5-位にメチル、クロロ及びニトロ基を導入したヒドラゾンを合成し、これらの化学的性質及びその錯体の性質を明らかにした。その結果、ニトロ基を導入した5-PANPHが最も高いセンシング機能を有していることがわかった。更に、3-及び3、5位にニトロ基を導入した3-PANPH及び3,5-PANPHを合成し、5-PANPHを含む都合3種類のヒドラゾンについて、呈色試薬としての有用性を検討したところ、特に3,5-PANPHがニッケルの抽出吸光分析試薬として有用であることを明らかにし、その定量法を開発した。 2 一方、5-PANPHのヒドラジン側の5-ニトロピリジンを固定し、アルデヒド側のピリジン環をキノリン及びフェナントリジン環に代えたヒドラゾン、それぞれQANPH及びPhANPHを合成し、これらの化学的性質並びにその錯体の性質を吸光光度法によって調べた。その結果、QANPHが銅(II)とモル吸光係数(ε)の大きな(ε=1.18×10^5lmol^<-1>cm^<-1>)1:2(銅:配位子)錯体を形成することを見いだし、微量銅の選択的吸光光度定量法を開発した。 3 ヒドラゾン錯体のモル吸光係数が10^5台の高いセンシング機能を有するのは、PAPHのヒドラジン側のピリジン環の5-あるいは3,5-位にニトロ基を導入した化合物だけであった。これは導入したニトロ基の誘起効果によって、共役系の長い、かつキノン型構造を形成するために錯体のモル吸光係数が大きくなったと考察し、提案した。
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