研究概要 |
近年, 非晶質材料の製造技術は著しく進歩し, 超急冷双ロール法, スパッタリング法, ゾルーゲル法, イオンビームクラスター法を用いて工業的に有用な材料が作製されている. しかしながらそれらの材料に関する物理的評価, とりわけ表面硬さなどの機械的性質に関しては, 定まった試験方法の規格がなく, 物理的意味もあいまいであるのが現状である. 本研究では非晶質材料の機械的性質を評価する手段として, 微小硬度を選択し, その荷重依存性や雰囲気依存性を詳しく調べ, 新しい評価法を確立することを試みた. 試料としては高純度SiO_2ガラスを用い, 荷重を10, 25, 50, 100, 200gと変化させ, その荷重時間も10秒から1800秒にわたり変化させた. これらの測定をアセトントリル, ホルムアミド, ヒドラジン, 水中, 空気中, トルエン, アセトン巾と変えて行ない圧痕の長さと荷重の関係を求めた. その結果, 荷重Lと圧痕の長さlの間にはL=a_1l+a_2l^2の関係が存在することが明らかになった. この最初の項は圧痕を施した際に必要な表面を作るために費やされる力と密接に関係していた. 即ちa_1は各溶媒の表面エネルギー減少量と比例していた. また第2項は圧痕を施した際に必要な体積を変化させるのに費やされる力であり, この値は水中を除いてほぼ一定となり, ガラス固有の硬度とよべる値といえる. a_2は荷重にも, 荷重時間にも依存しないので, 物理的意味がはっきりし, ガラスを構成する原子の化学結合力と結びつけることができた. 他のガラス系であるホウケイ酸塩ガラスやソーダライムケイ酸塩ガラスにも適用することを試みたところ, a_1とa_2はシリカガラスと同じ挙動を示した. 以上のように, 今まで荷重により変化したり, 雰囲気により変化していた微小硬度の値を, ガラスに特有な値である物理量と定義することができた. このa_1とa_2の値をすべての非晶質について求め, 物理定数として使用すべきであると考えられる.
|