研究概要 |
1,2-ジアシル-1-クロロエチレンに数種のジ置換ジアゾメタンを反応させると、ピラゾリンとシクロプロパンを与えた。ピラゾリンの熱安定性は、C-5の置換基がビフェニリレン<Ph,Ph<Ph,Me<Me,Meの順に増加した。一方、C-3、C-4、C-5にシス配置でかさ高い隣接基をもつピラゾリンは、他の異性体よりも安定であった。この異常な安定性は、かさ高いC-4置換基が、C-3やC-5の共役基の分解に有利な立体配座を部分的に妨害するためであるとして合理的に説明できる。ピラゾリンのシクロプロパンへの熱的変換は、殆んどのものが出発物質の立体化学を保持して進行したけれども、かさ高いシス隣接基をもつ幾つかのピラゾリンは立体異性をもつシクロプロパンの混合物を与えた。これらの熱分解の機構は、生成物の立体化学的分布を基礎として、(90、90)トリメチレン中間体を経るものとして説明できた。 ジ置換ジアゾメタン(2-ジアゾプロパン、フェニルジアゾエタン、ジフェニルジアゾメタン、ジアゾフルオレン、ジアゾインデン)と1,2-ジアシル-1-クロロエチレン(ジメチルクロロフマレート、クロロナフトキノン、N-トリルクロロマレイミド)から誘導される5,5-ジ置換3-クロロ1-ピラゾリンをトリエチルアミン存在下処理すると、特殊な場合を除いて対応する3,3-ジ置換ピラゾレニンを好収率で与えた。5員環イミド環の縮環したビシクロピラゾリンはピラゾレニンを与えずその開環したジアゾアルケンを与えた。しかし、6員環の縮環系ではピラゾレニンが単離された。5員環縮環系におけるジアゾアルケンの生成は、2つの5員環縮環ビシクロ系に由来する立体歪により相対的にジアゾアルケンの方が安定になるためと理解できる。この歪の存在は、MM2計算や化学的根拠から裏付けられた。
|