研究概要 |
グルタル酸無水物とO価ニッケル錯体の反応においては, グルタル酸無水物のC-O結合が切断されてニッケルを環構造の一員として含有する6員環シクロステル錯体が生成する. この6員環シクロエステル錯体はジホスフインの配位により環収縮反応を起こし, キラル中心を有する5員環錯体へと交換される. この5員環錯体は一酸化炭素との反応により3-メチルコハク酸無水物に交換される. 従って, 原料のグルタル酸無水物をニッケル錯体を用いることにより3-メチルコハク酸無水物に変換することができる. ニッケル錯体に(S,S)-CHIRAPHOSなどのキラルジホスフィンを配位させた場合には, ニッケル錯体上で起こる環収縮反応と共に5員環錯体上に不斉が誘導される. 誘導される不斉は, 速度論的に誘導されるものと, 熱力学的に誘導されるものでは逆の立体配置を有する. すなわち, まず最初に速度論的に生成し易いエナチオマーが生成し, これが一次反応速度式に従う速度で逆の立体配置を有するエナンチオマーへと交換される. この変換反応はCPK分子模型を用いることにより合理的に説明される. 一方, チオエステル等のC-S結合を有する化合物は, 低原子価錯体存在下にC-S結合切断反応を起こし, この反応を応用して新しい合成反応を組立てることが可能であった.
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