初年度の研究により液晶構造を固体中に保持した高分子固体構造体を種々の方法により作成することに成功した。そして、その構造について主として走査型電子顕微鏡により解析を行った。より液晶状態での構造を固体中に保存させるためには、リオトロピック液晶を固定化するよりも、サーモトロピック液晶を固定する方が良い事が判った。しかし、セルロース誘導体では液晶形成温度が高く、熱分解反応が起るので、今年度はより低温でサーモトロピック液晶を形成するセルロース誘導体を新たに合成することにした。誘導体としては柔軟なアルキル鎖をエステル結合により導入したものである。アルキル鎖長及び導入率を変化させる事により液晶温度及び温度域を変える事を試みた。液晶温度及び温度域はアルキW鎖長及び導入率により大きく変化できる事が明らかとなった。これらの合成試料について、液晶温度で十分に構造熟成した後、液体窒素中に急冷し液晶構造を固定した。固化した構造はその破断面を走査型電子顕微鏡により観察した。リオトロピック液晶の液晶構造固定の場合と異なり、サーモトロピック液晶の場合には、非常に規則正しく液晶構造の固定化ができるようである。これはリオトロピック液晶の場合には固化に伴う溶媒の蒸発で構造の大きな乱れが生ずる事によるものと考えられた。得られた液晶固化膜について、コレステリック構造からの選択反射光を、この研究経費により購入したy型オプチカルファイバーを用いて測定した。サーモトロピック液晶状態では強い選択反射がみられたものの、液晶固化膜からは幅の広い弱い反射しか観測されなかった。ポリペプテドについて同様な研究が行われ、選択反射の強い膜が得られたとの報告があるが、セルロース系液晶の場合には鏡構造の剛直性にやや劣るため光の波長オーダーでは乱れた構造となってしまったものと考えられる。
|