研究概要 |
水溶性高分子を架橋することによって得られるヒドロゲルは, 外部条件の微小な変化によってその体積が大きく変化する. この体積相転移現象を利用すれば, ゲルをアクチュエイターやセンサー等へ応用することが可能である. 本研究ではゲルの体積相転移現象を支配する因子を明確にし, ゲルの分子設計論を確立することを目的とした. 現在までに体積相転移が報告されているのは, 全てが水を含む相互作用が強い系である. このことより, 本研究では, ゲルの相転移現象を支配する因子は高分子-水間, あるいは溶媒分子同士の水素結合であると推論し, 以下のような実験を行った. 実験に用いたのはアクリルアミド/アクリル酸共重合体ゲルである. まずはじめに, 従来からこの系について報告されているアセトン水溶液の他に, メタノール, エタノール, イソプロパノールの各水溶液に対する相転移挙動を観察した. その結果, 溶媒により相転移点が異なり, さらに転移点とアルコールの水素結合性には明かな相関がみられた. これは, 溶媒である水とアルコール間の相互作用がアルコールあるいは水と高分子の相互作用に比較して大きく, そのため溶媒全体として水素結合能力が変化し, ゲル中の高分子鎖間に一般に疎水性相互作用と呼ばれる効果が発現したためと思われる. この考えに従うと, 溶媒-高分子間の相互作用より溶媒分子間の相互作用が強い溶媒を用いた時には, 疎水性相互作用と類似の疎液性相互作用と呼ばれる現象が起こるはずである. そこで次に, 水と非常に強い相互作用をするDMSOを加えてゲルの挙動を観察した. その結果, 疎液性相互作用と思われる現象を確認できた. 以上よりゲルの相移転を支配する最も大きな因子は, 系内に存在する水素結合であると結論した. また, ゲルの電気化学ポテンシャルを調べる前段階としてゲル中の非イオン性物質の透過現象を観察したが, ゲル中への特別な取り込み現象は観察されなかった.
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