研究概要 |
本研究はバイオインダストリーにおける有用タンパク質の新たな分離濃縮法の開発の基礎として, 温度が数度から数十度の範囲で可逆的にかつ速やかに親水-疎水転移現象を示す感温高分子ゲルの分子力を利用する分離濃縮操作法を提案し, 高分子ゲルの親水-疎水転移特性イオンの影響など関係する因子を明らかにすることを目的として行ったものである. 約37°Cを境にして親水-疎水転移現象を示すポリビニルメチルエーテル水溶液を原料とし°C0からのγ線を照射することによって架端して得たポリピールメチルエーテルゲル(PVMEG)を実験材料とし, まず温度によるゲルの転位現象とタンパク素原料液中に共存する可能性のあるものを含めた各種イオンの転移現象に及ぼす影響を調べ, ついでカゼイン, アルブミンなどのタンパク質と疎水度の異なるアミノ酸を試料とした場合のPVMEGの親水-疎水転位を利用する濃縮の可能性について検討した. カゼイン水溶液にPVMEGを添加し, その懸濁液の温度を変化させた場合, ゲル内部でのカゼイン濃度のバルク中でのそれに対する比の値を濃縮率と定義すると, 濃縮率は20°C以下では約0.3, 40°Cで約3.0となり, 一回の操作で疎水性相互作用により10倍以上の濃縮が可能であった. しかし, アルブミンでは必ずしも濃縮現象が明確ではなく, また, 疎水性度の異なるアミノ酸(クルタミン酸, グリシン, ロイシン)水溶液の21°Cと39°Cの温度下のPVMEG中における濃縮率はいずれのアミノ酸も21°Cの場合が1以上, 39°Cの場合が1以下でゲルの疎水性が減少するにつれてアミノ酸が濃縮される現象がみとめられたものの, アミノ酸の疎水性度による差は明確ではなかった. これらの実験結果から分子量が大きく疎水性度の大きいタンパク質はPVMEGによって分離濃縮が可能であるがアミノ酸からオリゴペプチドのような低分子物質ではアミノ酸残基の疎水性度の差による濃縮は効果的でないと判断された.
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