研究概要 |
リグニン中のエーテル結合の選択的な開裂を目的として, トリメチルシリルアイオダイド試薬(TMSiI)によるリグニンモデル化合物, グアイアシルグリセロールーβ-グアイアシルエーテル(GG)および磨砕リグニンの処理を行なった. その結果, GG中のβ-エーテル結合は以下の条件でほぼ定量的に開裂することが, グアイアコールの生成量から明らかとなった. 溶媒:クロロホルム, 処理温度:0°C, 処理時間:3hr, GGの濃度:10mg/ml, TMSiI/GGモル比:10/1. なお, この条件において, 芳香族メトキシル基の脱離が無視しうることは言うまでもない. GG中のβ-エーテル結合の開裂によって生じる生成物としては, グアイアコールの他に著量のコニフェリルアルデヒドおよび少量のコニフェリルアルコールと構造未知の化合物Aの存在が認められた. 化合物Aの構造としては, コニフェリルアルコールに対しHIが付加した構造が推定されるが, 現在のところ確定的ではない. 以上の結果を踏えて, β-エーテル結合の開裂反応機構を提案した. それによると, ベンジル位に導入されたヨウ素原子がヨウ素アニオンの攻撃により, I2として脱離する際の分子内=電子移動の結果, β-エーテルが開裂する. 磨砕リグニンに対しても, 同様な条件でTMSiI処理を行なったところ, その約70%がクロロホルムに可溶となった. クロロホルム可溶区分の分子量はGPCにより300〜500であり, 単量体〜三量体程度にまで低分子化している. TMSiI処理過程における二次的変質, とくに芳香核に対する縮合反応の有無について, アルカリ性ニトロベンゼン酸化分解法によって検討したところ, 無視出来ることが明らかとなった. 以上の知見に基づき, TMSiIによってリグニン中のエーテル結合が選択的に開裂することが明らかとなった. 今後はこれを利用したリグニン中の結合様式の分布に関する研究が可能となろう.
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