研究概要 |
木材が衝撃負荷を受ける場合, 強度低下の重大な因子であると考えられるものに目切れとクラック状の欠陥があげられる. 本研究ではこれら欠点による木材の衝撃性能の低下を, 静的曲げ試験の結果と比較することにより, 実験的に明確にするとともに, 理論的に解明することを目的とした. 中心となる実験ではスプルースを用いてJIS衝撃曲げ試験と同寸法で, 柾目面打撃として, LT面で繊維走向を5°おきに30°まで変化させた. 打撃面の反対側外縁にスリットを入れたものも同時に試験した. その結果, 衝撃曲げの方が静的曲げよりも目切れの影響を大きく受けることが確認された. また, スリットを有する場合, 静的負荷ではスリット先端から進行するクラックは繊維に沿って進行するが, 衝撃の場合には繊維走向からのずれが目立った. これらの現象を理論的に解釈するために差分法によるシミュレーションを行なった. ただし, 繊維傾斜やスリットを導入することは技術的に困難であったので, 等方無欠点材での応力解析結果からの推論にとどまる. 衝撃の場合, 最初打撃部分に大きなひずみが遍在し, それが弾性波としてはりの全体に伝播していく. したがって打撃部分に目切れやき裂などの欠点が存在すると静的負荷に較べて, より大きな影響が生じることが考えられ, 実験結果とよく符合した. またスイートスポットをはずすと, 野球のバットなどが折れやすいこともこれらのことから予想された. スリットを入れたものについては, 破壊力学からのアプローチとして破壊靭性値KICを算出したが, 解釈は今後の検討事項である. 木材の組織構造が衝撃性能に及ぼす影響を明確に見る目的で, スギ材を用いて柾目面打撃と板目面打撃の比較を行なった. 衝撃曲げ強さは大差なかったが, 吸収エネルギは板目面打撃のものの方が大きかった. これはクラック進行過程で早晩材境界で剥離が生じ, クラック停止機能を発揮するからであると解釈された.
|