研究概要 |
本研究は既存の染色体または染色体断片を発生卵内に導入して, 新しい形質を有する個体の作出が可能か否かを知る事を目的として行った. 卵内への染色体断片の導入は受精による方法を用いた. 染色体の断片化には精子に^<60>Coγ線を照射する方法を用いた. 2倍性の回復には受精後第2極体放出を阻止する方法を用いた. 材料としてサクラマスの卵の染色体2セット(2n)にサクラマス, カラフトマスまたはサケの精子由来の染色体を受精によって卵内に導入して2n+α, (α:染色体断片)の染色体を持つ個体を作出した. 精子に照射するγ線量は染色体の断片化に有効な5×10^3, 7×10^3, 10^4, 2×10^4Rとし, 完全に染色体が消失する10^5R照射精子も併せて用いた. これらの線量を照射した精子でサクラマス卵を媒精するといずれの線量においても胚の発生は正常に進行せず, 孵化までに全て全死する. しかし, 受精後7-10分後に水圧650Kg/cm^2を処理して卵由来の染色体2セットを確保するとサクラマス精子断片の場合, 7×10^3Rで28%が孵化し, 10^4Rでは, 1.3%が孵化した. 一方, カラフトマス精子の場合, 5×10^3Rで0.3%, 7×10^3Rで1.3%, 10^4Rでは0.5%, 2×10^4Rで1.1%が孵化した. これらの線量では, 染色体は断片化し, 孵化した個体はいずれも精子由来の染色体断片を持ちながら発生が正常に進行したものと考えられ, アイソザイム検索の結果から精子由来の遺伝子活性が確認された. これらの結果から本方法が染色体断片の導入法として利用が可能であることが明らかとなった. 更に凍結した精子にγ線を照射した場合10^5Rの高線量で多数の染色体断片が観察され, 雌精発生法で2倍化を計ると生存率が10%以上に達する事が明らかとなり, 凍結精子を利用した染色体断片の導入の有効性が確められた. 本研究によって染色体断片を導入した場合でも正常に発生が進行し, 新しい遺伝形質を有する個体の作出が可能であることが示された.
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