研究概要 |
小型サケ亜目魚類の比較生活史研究の一環として, 極東産の特化群シラウオ科の生活史戦略と地理的分布について調査をおこなった. 主な結果は次の3項目に要約できる. (1)日本産シラウオ科魚類の分布:有明海関連水域に特産のアリアケシラウオとアリアケヒメシラウオの現地調査を実施し, 現在絶滅が危惧されているこれら2種の標本を確保すると同時に, 生息環境に関する情報を集めた. 形態学的特性については目下検討中である. (2)シラウオの地理的分布:本種の主要生息域である宍道湖, 三方五湖, 八郎湖, 十三湖, 小川原湖, 霞が浦, 北浦, 木曾川河口において標本を採集し, 形態および繁殖形質の地理的変異について解析中である. シラウオは人為的移植のおこなわれていない魚種であり, これらの試料によって, 汽水性魚類の生物地理を考察する上で貴重な知見がえられることが期待できる. (3)茨城県涸沼におけるシラウオの生活史:既往の試料および本年度の採集個体について検討を加えた結果, (A)1986年と1987年産卵群の間で成長に大きな違いが認められた. (B)これら両年間では卵巣の成熟様式にも差異がみられた. つまり, 左側卵巣のみが成熟するA型と左右両側卵巣が成熟するB型の出現率が大きく異なったばかりでなく, B型の出現率が体長75mm以上の個体で高いことが判明した. (C)生殖腺指数は86年群<87年群, 抱卵数は86年群(平均1141粒)>87年群(平均722粒)であり, 卵径は産卵期が進むにつれて小型化した. このように本種は年級毎に体成長と成熟特性が調節的に変化する他に, 産卵期間中の環境条件に応じて卵径を調節するといった, 二段構えの繁殖戦略を具えていることが推測された.
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