研究概要 |
近年, ブロイラー産業界では感染症や中毒に代って, 冬期に多発する致死率の高い腹水症が問題となっており, その病因解明と適切な防禦対策の確立が急がれている. これまでの腹水症自然発症鶏の病理ならびに疫学的所見から, 本症の原因として右心不全による循環器障害が, また, 誘発要因には急成長期における低温感作が推定されている. そこで, 本研究では, 病態生理学的立場から本症の成因ならびに誘因を明らかにするための調査および発症試験を行った. まず, 腹水症自然発症鶏についてみると, 心拍数, 呼吸数, 最高・最低動脈圧および脈圧が正常鶏に比べて有意に低く, 最大・最小静脈圧は逆に高かったことから, 全身性の循環不全におちいっていることが判明した. 一方, 無窓鶏舎内で一般飼育管理下にあった5〜7週齢のブロイラーを対象に, 急性寒冷暴露(12〜15時間)または亜急性寒冷暴露(3〜6日間)した時の生体反応を詳細に観察した. その結果, 以下に示す結論が得られた. すなわち, 冬期のブロイラーは夏期に比べると, 交感神経緊張状態が続き, しかも代謝亢進にともなう低酸素血症に移行しやすい状態にあり, とくに, 腹水症好発日齢(40日齢前後)の個体では急成長期に相当しているので心臓に対する負荷が著しい. このような時期に, 寒冷感作が加わると, まず左心系に負荷が増長され, そのために生じた全身性の循環不全により, 右心系の負荷が亢進してうっ血性心不全へと移行し, 腹水症を発症するものと考えられた. また, この場合, ある程度の寒冷環境下におかれていた個体では, すでに左心系への負荷がかかっているため, 短時間の寒冷感作によっても容易に腹水症を発症する可能性のあることも明らかとなった.
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