研究概要 |
カイニン酸, キノリン酸は神経毒性をもつ興奮性アミノ酸アナログである. これらの薬物を線条体に投与すると, ニューロン細胞体・樹状突起が選択的に変性・消失することが知られている. 本研究ではリン酸パッファーに溶解したカイニン酸(10nmol)またはキノリン酸(230nmol)を脳定位的に尾状核頭に注入し, 術後1,2,4,7,14,21,28,35,56日間生存させたネコを用いて, 2種の神経ペプチド, ニューロテンシン(NT)とカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP), に対する免疫活性の変化を検討した. 正常ネコ線条体もしくは溶媒のみを投与した線条体では, NTおよびCGRP免疫活性は神経線維成分に局在した. 薬物を投与した線条体では, ニューロン消失部からペプチド免疫活性がほとんど消失した. 一方, 薬物投与後4-56日目においてNTおよびCGRP陽性ニューロンが, ニューロン消失を免れた広範な線条体領域に出現した. これらのニューロンは中型ないし大型の細胞体と有棘樹状突起を有していた. このうち, CGRP陽性ニューロンはP物質に対する免疫活性を併せもつこと, さらにP物質含有ニューロンの投射する脚内核と黒質では薬物投与の側に一致してCGRP陽性神経線維が出現すること, を明らかにした. 線条体に出現するCGRP陽性ニューロン数に対するタンパク合成阻害剤puromycinの効果を検討したところ, 薬物とpuromycinを併用投与することによって, 出現するCGRP陽性ニューロン数が30%以下に減少することがわかった. 電気凝固法による傷害を線状体に与えたところ, NTおよびCGRP陽性ニューロンは出現しなかった. 以上より, カイニン酸ないしキノリン酸による線条体傷害に基づいて, 変性・消失を免れたニューロンの領域の少なくとも一部のニューロンにおいてペプチド免疫活性が増強ないし発現することが明らかになった.
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