研究概要 |
1.二丘体傍核の線維結合に関する概略の所見(科研費研究課題61770055)を基礎に, 本研究では特に二丘体傍核上丘投射について実験解剖学的手法と免疫組織化学手法を組み合わせる実験を行った. ネコの上丘にトレーサーとしてビオチン化WGA(B-WGA)を注入し, 軸索輸送によって逆行性に標識された神経細胞を, 脳のビブラトーム切片上で, 二丘体傍核に検出した. さらに同一切片上においてコリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)のモノクローナル抗体を用いて免疫染色を行った. トレーサーおよびChATの免疫染色とも検出にはアビジン・ビオチン・ペルオキシダーゼ複合体とジアミノベンチジン(ABC-DAB)法を用いたが, B-WGA陽性構造は細胞体内で比較的大型の顆粒状を呈するのに対し, ChATの標識は細胞質全体の瀰漫性染色であったため両者は容易に区別された. 二丘体傍核ではB-WGA陽性細胞のほとんどがChAT陽性を示したので, 二丘体傍核上丘投射線維はコリン作働性であることが形態学的に強く支持される. 2.一方, 二丘体傍核上丘投射線維を独占的に受けるとされる上丘浅灰白層においては, 従来の報告ではChATの免疫染色性が非常に弱く信頼性に乏しかった. この形態学的所見の矛盾は著者の工夫による高感度な検出方法を用いることによって解決された. 著者は低濃度の固定液(2.5%パラポルムアルデヒド)と, ABC試薬の代りにアビジン・ペルオキシダーゼ・ニッケル・DAB試薬を用いて検出感度を高めた. この方法では従来の細胞体の検出に加えて, 微細な神経線維の検出も可能となり, 上丘浅灰白層では特にその表層に強いChAT陽性線維網を認めた. これは実験解剖学的に示された二丘体傍核上丘線維の終止領域に一致している. 3.二丘体傍核上丘投射の起始細胞ならびにその投射部位の両方においてChATの存在を形態学的に示した. 他の投射系ならびに他の伝達物質候補などについてはひき続き今後の検討課題としたい.
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