認知記憶の生成には、大脳のうちでも側頭葉が不可欠の役割を果たしている。視覚再認記憶に関して、側頭葉は、海馬傍回にある系統発生的に新しい視覚連合野(uon Bonin&BaileyのTE野)と系統発生的に古い海馬(hippocampus)という相互に密接な線維結合のある2つの記憶システムを含む。本研究では、各々の記憶システム内のニューロン活動を直接記録することによって、これらの機能を具体的に解析した。日常の経験からの干渉を排除した中立な記憶対象として、本実験では、フラクタルアルゴリズムを応用してコンピュータにより人工的図形を多数生成した。日本ザルにフラクタル図形を記憶させる為に、遅延見本合せ(deayed motchiug-to-sample)課題を用いた。この課題では、サルがレバーを引くと各試行が開始され、眼前30cmにあるテレビモニタに1つのフラクタル図形が0.2秒間提示される(見本図形)。見本図形はすぐに消え、16秒の遅延期間の後、0.2秒間比較図形がモニタ上に提示される。サルは、見本図形と比較図形が同一であるかどうか正しく答えると報酬のジュースを得ることができる。正解する為には、遅延期間中、見本パターンを覚えていなければならない。この課題を遂行中のサルTE野に、サルがある特定のフラクタル図形を覚えている間にだけ持続的に発火するニューロン群を見出した。テストされた100枚のフラクタル図形のうち、そのような最適図形は各ニューロンごとに2-3枚であった。他の図形をサルが覚えている遅延期間には、そのニューロンは殆ど発火しない。異なるニューロンでは最適図形は各々異なっており、TE野ニューロン全体では、アンサンブルとして全てのフラクタル図形の記憶をコードできる。さらに、各ニューロンの最適図形は、サルが特訓中に学習した図形相互間の連想関係を反映していることが見出され、ヒト長期記憶の連想性のメカニズムが、これら多数のニューロン間に分散された反応選択性に起因することが明らかになった。
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