研究概要 |
ret癌遺伝子は増殖因子レセプターと類似の構造を有するチロシンキナーゼ遺伝子(proto-ret)の5^1側にfinger構造を有する遺伝子(rfp)の一部が融合し、活性化された遺伝子である。ret癌遺伝子はそのcDNAの解析から両者の配列から由来する融合蛋白をコードしていることが判明した。我々はret蛋白に対するモノクローナル抗体を作製するため、cDNAから予想される15ー20アミノ酸からなる3種のペプチドを合成した。このうち2種はキナーゼ遺伝子の一部に相当し(pep-1,pep-2)、他の1種はrfp遺伝子の一部に相当した(pep-3)。これらのペプチドをBSAあるいはサイログロブリンに結合後、BALB/cマウスに免疫し、ハイブリドーマの作製を行った。その結果、酵素抗体法にてpep-3に特異的に反応するクローン(IgM)が1ヶ得られたが、pep-1,pep-2に反応する抗体は得られなかった。得られた抗体(以下RFP-1)が蛋白を認識できるかどうかさらに明らかにするため、ret蛋白とrfp蛋白をそれぞれのcDNAからウサギ網状赤血球ライセートを用いて作製し、ウェスタンブロットを行った。アビジンービオチンーペルオキシダーゼ法(ABC法)により検索した結果、RFPー1はrfp蛋白とは反応したがret蛋白とは反応しなかった。即ち融合蛋白でないものと考えられた。さらにRFP-1はrfp遺伝子を高レベルで発現しているHL-60細胞のライセート中にもrfp蛋白と考えられるバンドを検出した。次にRFP-1を用いてABC法により免疫組織染色を行った。種々のヒト組織を染色した結果、精細胞の核の90%以上が強陽性を示した。他の組織では消化管粘膜上皮、リンパ節・胸腺のリンバ球腎尿細管上皮、肝細胞の核の20ー40%が散在性に陽性を示した。これらの結果はrfp遺伝子のmRNAの発現様式とよく一致しており、RFP-1が細胞内のrfp蛋白を認識できることを示した。
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