研究概要 |
腸管系病原性大腸菌は病原性により4群(ETEC, EPEC, EIEC, EHEC)に大別されているが, 後ろ群の病原性因子の実体は不明で医学細菌学上重要な問題となっている. ところで大腸菌と赤痢菌は最も近緑な関係にあるがEHECや一部のEPECでは志賀様毒素の産生性, EIECは細胞侵入性において各々共通性を示す. しかしその病原性の本体は不明で, 複数の因子が関与し病原性を発現しているものと推定されている. したがって腸管系病原性大腸菌各群の生物学的特徴, 具体的には染色体DNAの遺伝構築, を分子レベルで明らかにできればそれは病原因子を理解する上に1つの手掛りになると考えられる. そこで本研究は菌染色体の分子遺伝学的特徴の1つとしてISIの分布を調べ, EIEC-EPEC-EHEC-shigellaeの類緑関係を明らかにすることを目的とした. 具体的には(1)EIEC, EPEC, EHEC, 赤痢属各血清群に属する菌を多数集収しそれらの染色体DNAを分離精製し, (2)EcoRIで完全切断後アガロース電気泳動にて分離し, (3)ISIDNAをプローブにしサザン法にてISIを含むEcoRI断片の数を調べた. 以上の方法にて73株についてISIの分布を調べた結果, EIEC(26株)はすべて25コピー以上のISIを有し, それは赤痢菌のそれと著るしい類似性を示した. EPEC(15株)は0〜11コピーとISIの分布は様々であった. EHEC(7株)は同一サイズのEcoRI断片上に唯一のISIが存在していた. さらに3種の異なる血清型に属するEIECのISIを単離しその全塩基配列を決定し, 既報の赤痢菌の4種のISIと比較した. 029と0136のISIは互いに同一でその塩基配列はB群赤痢菌のISI(ISIF)と, 又02412D群赤痢菌のISI(ISIS)と各々酷似していた. これらの結果は, EIECが他の2つの病原性大腸菌とは異なり, むしろ赤痢菌と同一の遺伝学的背景を備えていることを示唆している.
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