研究概要 |
毒素原性大腸菌はヒトあるいは家畜にコレラ様下痢を惹起する病原体である. 経口感染すると(i)菌体表層にある線毛などの構造を介して小腸粘膜に粘着, 増殖し, (ii)腸管毒素(易熱性毒素LTあるいは耐熱性毒素ST)を産生して下痢を惹起する. 本研究では, 病原因子としてCFA/I粘着線毛, LTそしてSTを産生するヒト株を用い以下の成果を得た. (1)LT遺伝子関係 LT遺伝子の全塩基配列を決定した(外国研究者の成績の修正を含む). これを基にして, LT・トキソイド遺伝子を作成した. また, LT遺伝子とコレラ毒素遺伝子が共通の祖先から由来したことを証明した. このような毒素原性大腸菌とコレラ菌の成績に基づいて, 病原細菌の不連続進化論を提唱した. これらの病原細菌は, 祖先からの遺伝子を修飾することによって病原性を確立したのではなく, 他の細菌(菌種)から遺伝子を獲得することによって確立したと推察されたからである. (2)CFA/I線毛関係 腸チフス経口生菌ワクチン株(Ty21a)にCFA/I遺伝子領域を導入し, Ty21a株でのCFA/I線毛の産生を確認した. CFA/I産生Ty21a株とCFA/I非産生Ty21a株を用いて, ヒト小腸粘膜への粘着を検討した結果, 前者の方が後者より粘着が優れていることを確認した. (3)経口生菌ワクチンモデル株の作成 CFA/I粘着線毛とLT・トキプイドを産生するTy21a株を作成した. さらに本ワクチンモデル株の安全性と有効性を動物(ウサギ)実験で確認する予定である.
|