研究概要 |
X染色体連座免疫不全症(XLA)患者および重症複合免疫不全症(SCID)患者骨髄細胞をEBウィルスによってトランスフォームすることにより樹立した前駆B細胞株について免疫グロブリン重鎖遺伝子の再編成を解析したところ, XLAではD-J再編成をおこしており, SCIDでは生殖細胞型のままであった. このことはXLAにおいてV-D再編成, SCIDではD-J再編成がおこなえないことを示しており, これらの再編成に必要な核内因子の欠損が病気の原因であるとの仮説を提唱した(Immunogenetics,1988). またXLA細胞株(XPB-1)よりクローニングしたD-J中間体遺伝子の構造解析から新しいタイプのD遺伝子(Dxp1)を見いだし, これをプローブとしてT.Maniatisのヒト遺伝子ライブラリーから生殖細胞型のD遺伝子(入HD003)を単離した. 本クローンは約14kbであり, その制限酵素地図の解析および塩基配列の解析から従来報告されているD1遺伝子(D_<LR1>)を含み, Dxp1はDLR1の約2Kb下流に存在することが明らかになった. ヒトD遺伝子については2種類のファミリーが知られていたがこれだけで免疫グロブリン重鎖CDRIII領域の多様性を説明することは不可能であり, D-D再編成という別の多様性産生機構も提唱されている. DLRは9kbの間隔をおいて存在すること, また今回新たに見いだされたDxp1がこの領域におちたことから9kbのDLRの間にさらに別のD遺伝子が存在する可能性が示唆された. 今回14kbの本領域の全塩基配列を決定し, 新たに3種類のD遺伝子と1種類の偽D遺伝子を見いだした(Eur.J.Immunol,1988). これらの生殖細胞型D遺伝子を11個の体細胞型D遺伝子と比較することにより体細胞型免疫グロブリン重鎖遺伝子のCDRIII領域は主要には1つのD遺伝子によるV-D-J再編成によって形成されることが明らかになった. 今後はこれらの再編成に関与する核内因子の検索をおこなう計画である.
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