研究概要 |
銅の脳神経系の発達における役割を知る目的で, 銅欠乏乳仔マウスを用いて, 1脳神経系の発達に銅が必要とされる最も重要な時期. 2脳内銅量, 銅酵素活性の変動. 3脳組織の形態学的な変化について実験を行なった. 実験には, D-Penicillamineを成熟雌マウスに投与して得た銅欠乏乳仔マウスを用いた. その結果, 銅欠乏乳仔では, 生後10日頃から, 死に致る, 多様な神経症状が認められ, 次第に重篤となり, 生後21日の生存率は約40%であった. これら銅欠乏乳仔マウスに, 生後1, 3, 5, 10, 14日の各時期に硫酸銅水溶液を腹腔内投与した結果, 生後10日目の銅投与により, 神経症状の発現を防ぐことができた. 一方, 対照群乳仔の脳脊髄中銅量は, 生後, 特に14日頃より急増加し, 生後21日では, 新生仔の3〜5倍量に達するのに比べ, 銅投与群では, 常に有意に低い値を示した. そして, 銅欠乏乳仔への銅の添加は, 脳銅量の速やかな回復をもたらした. これらのことから, 乳仔マウスの脳神経系の発達に, 銅を必要とする, 重要な時期が, 生後10日頃にあることが示唆された. また, 脳内cytochrame oxidase活性は, 銅欠乏乳仔において有意に低く, 脳内銅量によく対応しており, 脳障害への関与が考えられた. 形態学的には, 銅欠乏乳仔マウスの大脳皮質, 視床核に局在する変化が認められた. 超微形態学的な観察の結果, 初期変化が, 神経細胞に認められた. 神経細胞の, 細胞体, 樹状突起, 軸索内のミトコンドリアは著しく膨化していた. 続いて, 神経細胞の核の濃縮が起こり, 細胞質が変性に陥り, やがて, 軸索の変性へと進行することが明らかとなった. 髄鞘の変化は, 神経細胞の変性に伴って認められた. 銅投与乳仔では全くこれらの変化は認められなかった. 以上のことから, 銅の欠乏は, 乳仔脳の神経細胞の発達に重大な障害をもたらすこと, しかも, 銅を必要とする重要な時期が乳仔期前半に存在することが示唆された.
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