研究概要 |
(1)糖尿病患者左室心筋収縮能のβーアドレナリン(βーAd)作用不全 心不全症状のない糖尿病患者での左室心筋収縮能は外因性βーAdに対する反応性が低下していた。 (2)糖尿病ラット心筋細胞膜βーAd受容体特異的低下 〈1〉糖尿病ラット心筋細胞膜βーAd受容体は対照に比し50%低下した。〈2〉βーAdによるアデニルシクラーゼ(AC)活性化も56%低下したが基礎及びフォルスコリン最大刺激AC活性の低下はなかった。〈3〉GTP結合タンパク質(Nis,N1)はモノADPリボシル化反応でみる限り共に著明に増加した。 (3)糖尿病ラット心筋βーAd受容体の細胞内分布異常の検討 〈1〉心筋細胞を成熟ラットよりコラゲナーゼ法にて単離し、脂溶性^<125>Iーヨードシアノピンドロール(ICYP)及び水溶性(^3H)CGP12177という二種のβーAd受容体遮断薬を用いて各々全細胞及び細胞表面の機能的βーAd受容体数を測定した。糖尿病心筋のβーAd受容体異常は全細胞内受容体の低下ではなく、細胞表面の機能的βーAd受容体数の低下であり、又結合の親和性には差を認めなかった。〈2〉細胞βーAd受容体分布異常の短期インスリン治療による可逆性の検討 48時間の強力なインスリン治療により細胞表面βーAd受容体は回復した。(4)糖尿病ラット心筋細胞膜βーAd受容体低下機構の検討 単離心筋細胞に33mMグルコース,10mMケトン体,8mMインスリン処理をしたが表面βーAd受容体の変化を認めなかった。但しphorbol 12-myristate 13-acetateにより15%の改善を示した。一方βーAdによる受容体の"Down regulation"の亢進はなく、その回復が有意に低下していた。以上糖尿病での心機能不全の要因としてβーAd受容体低下と、原因として受容体の細胞内分布異常、特に細胞内より表面への受容体転送異常を示した。その異常の可逆性よりインスリン治療の意義を明らかにした。今后βーAd受容体の細胞表面への転送調節機序の解明が糖尿病心筋での異常機構を明らかにする上で重要である。
|