研究概要 |
近年,わが国において膵疾患,特に慢性膵炎の頻度は著しい増加傾向を示している。慢性膵炎は反復性・持続性の膵の炎症によって膵実質の脱落と線維化をきたす進行性不可逆性の疾患である。 われわれは慢性膵炎の病態を検討するための新しいラット実験モデルの作成を行ってきた。膵外分泌機能不全の新しいラット実験モデルはmicrosuryergの手法を用いてcholedochoーduodenostomy(biliary byーpass)を造設することにより膵管の完全結紮を可能にし,これによって膵の著明な萎縮を有するモデルを作成した。本年度はこれをさらに発展させ,膵管結紮後に膵管と十二指腸の再吻合を行い新しい慢性膵炎モデルの作成を試みた。このラット慢性膵炎モデルを用いて,障害膵の機能回復に及ぼす因子を明らかにすることを目的とした。方法としてWistar系雄性ラットを用い,まず麻酔下で開腹,膵管の完全結紮とbiliary byーpassを作成する。その1カ月後膵の萎縮が完成するのを待って,再び麻酔下で開腸し膵管と十二指腹との再吻合を行い,膵外分泌機能不全ラットを作成した。実験は2週間の術後の回復を待ってから行った。この慢性膵炎ラットにトリプシン阻害剤(camostat:200mg/kg1日)を2週間経口投与(camostat投与群)し,膵外分泌能・膵再生について対照群と比較検討した。膵管結紮後1カ月では膵重量は結紮前の約30%に減少し,膵外分泌能も著明に低下した。これはトリプシン阻害剤の経口投与によっても膵の再生は全く認められなかった。しかし,膵管を再吻合した新しい慢性膵炎モデルのラットではトリプシン阻害剤の経口投与によって膵重量は約60%まで回復し,膵外分泌能の改善も認められた。この新しい実験モデルによってこれまで困難とされてきたラット慢性膵炎モデルにおける膵の再生を証明した。従って,本実験モデルは慢性膵炎の病態を解明する上で有用と思われる。
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