研究概要 |
目的:Pick病の神経細胞に出現する重要な変化として注目されている二つの変化, Pick嗜銀球(Pick body以下PB)と腫脹神経細胞(Swollen chromatolytic neuron以下SCN)の関係を, 免疫組織化学的, 並びに超微形態的方法を用いて追求した. 対象:病理学的にPick病の診断のついた13例の脳組織が本研究の対象である. PBとSCNを伴う群が9例, 伴わない群が4例である. 方法:肉眼的萎縮を示した皮質の各部位並びに海馬を含むホルマリン固定パラフイン包埋標本より6um厚切片を作成し, ABC法による酵素抗体免疫染色を施した. 抗体は, 抗phosphorylated tau抗体(以下抗p-tau,Ihara et al 1986), 抗ubiquitin抗体(polyclonal,Haas et al 1985,and monoclonal,Mori et al 1987)を用いた. またホルマリン固定材料を急速凍結し, クリオスタットで6um厚の切片を作成し, 酵素抗体間接法で染色後, osmium後固定, 脱水epon包埋の上, 超薄切片を作成し電顕的に観察した. また海馬及び新皮質のいくつかの部位について通常の電顕的観察を行った. 結果:PBは抗p-tauにより100%認識された. PBだけでなく周辺のneuropilも細かく染色された. またSCNの胞体内の嗜銀性の部分が認識された. 抗ubiquitinでもPBは染色されたが, 陽性に染色されるPBの比率は部位によりまた症例によりかなりの差が存在し, PBを含まない神経細胞の胞体, 樹状突起, 核がしばしばびまん性に染色された. SCNは胞体がびまん性に染色された. 免疫電顕では抗p-tauによる免疫反応はPB内の線維構造に限局していた. 免疫電顕上PB類似の構造が周辺のneuropilに認められた. 超微形態上, PB類似の構造が樹状突起やSCN内に認められた. 結論:1.Pick病の病的過程は神経細胞体のみならず, 樹状突起にも特異的に及んでいる. 2.PBとSCNには免疫組織化学的にも超微形態上も移行が存在し, 同じ細胞病理学的過程の異なった段階を示していると考えられる.
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