研究概要 |
動脈硬化進展度別にヒト冠動脈のアセチルコリン(ACh)適用時の収縮・弛緩反応を観察することによりACh受容体機能の変化を検討した. 〔方法〕15例の剖検人屍より左右冠動脈起始部を採取し, 幅2.5mmの柵状標本を作製し, AChおよびニトログリセリン(NTG)を累積適用し, 等尺性張力変化を記録した. 動脈硬化の進展度は内腹と中腹の面積化(I/M)をもって表わした. 内皮の形態変化は走査定電顕にて観察した. 〔結果〕(i)AChの用量一反応関係:I/M比0.7〜1.5の軽度動脈硬化例の場合, 内皮非剥離下では10^<-6>M以下の濃度で弛緩反応を呈したが10^<-5>M以上では収縮に転じた. 内皮剥離下では10^<-8>Mより収縮反応が認められた. I/M比1.5以上での高度動脈硬化例では剥離, 非剥離にかかわらず弛緩反応は認められなかった. (ii)プロスタグラシェンF_<2α>(3×10^<-6>M)の適用によりI/M比の程度の如何にかかわらなく周期的収縮が観察された. (iii)周期的収縮に及ぼすAChの影響を検討した結果, 内皮非剥離例では弛緩相は10^<-7>Mで84%まで弛緩し, 収縮相は8%弛緩した. 内皮剥離例では3×10^<-6>M以上の濃度で弛緩相はむしろ上昇し, 振幅は極めて小となった. (iv)周期的収縮に対するNTGの影響を検討した結果, I/M比の程度の如何にかわらず, 内皮剥離, 非剥離下ともに周期的収縮を消失せしめることなく, 主として弛緩相を抑制した. 〔考察〕 動脈硬化の程度の如何にかかわらず周期的収縮が誘発され, 直接平滑筋に作用するNTGの適用に際しても動脈硬化進展度および内皮の存否によってその反応は左右されなかった. さらにAChは高度動脈硬化例においては弛緩反応を生ぜしめなかったことより, 動脈硬化という病態時には, 比較的選択的に内皮細胞のムスカリニックレセプターの機能に障害が生じているが内皮細胞の内皮由来血管弛緩因子(FDRF)産生能と平滑筋のEDRF応答応は残存していると考えられる.
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