研究概要 |
脆弱X症候群の日本人集団における頻度, その臨床症状と病能を明らかにするために, 茨城県下13の県立養護学校の協力を得て, 在校生約1500名の父兄にアンケート調査を行い, 894名の父兄より解答を得た. その内, 以前に染色体分析の結果, Down症候群を初めとする染色体異常に基づく精神発達遅滞を指摘された者は95名で, 全体の10.6%を占めていたが, 本疾患を診断された者は1名もいなかった. 一方, 白人集団において明らかにされている臨床症状を伴う者は53名, 約5.9%であった. 更に, 家族歴調査によって親族に在校生と同様の症状を伴う者が32名, 約3.6%にみられた. 以上の事から, 本疾患の日本人集団における頻度は, 精神発達遅滞者の約5%と推定された. 次に, 1つの養護学校の在校生において, 家族歴を有する者, 又は, 臨床症状を有する者8名について, 染色体分析を試み, 1名の本症患児を診断する事が出来た. 本症例は, 中等度の精神発達遅滞, 多動, 大きな耳, 突出した顔がみられ, 母親も軽度の知的レベルの低下がみられる他に, 3才の男児の従兄弟に自閉傾向を伴う精神発達遅滞がみられ, 染色体分析の結果, 本症である事が確認された. 又, 母親は本疾患の保因者である事も確認できた. 一方, 本疾患の病態解明の一助として, 成人例を含む10名の本疾患患者と年令の一致した正常人に聴性脳幹反応検査を行った所, 本疾患患者においては, 波形, 各波潜時, 各波頂点間潜時間が正常者とは異なり,聴性脳幹反応域値の上昇, 第III〜第V波潜時間の延長が認められ, 本疾患においては中等度の二次的聴覚障害を伴う脳幹白質部の異常のあることが示唆された. これらの結果は, 本症患児の経過観察, 機能訓練, 日常の生活指導において, 聴覚障害に留意する必要のある事を明らかにした.
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