研究概要 |
甲状腺ペルオキシターゼ(TPO)は, 甲状腺ホルモンの合成において重要な役割を担う酵素である. このTPOが, 橋本病の病態に関る重要な自己抗原の一つであるミクロゾーム抗原の主要成分であることが, 最近明らかにされた. 我々は, 橋本病患者由来の抗TRO自己抗体が認識するTRO抗原決定基の構造を解析し, 以下の点を明らかにした. 1.TPOには, 基室と反応する2つの異なった部位, 即ちヨードと結合する部位とチログロブリン(Tg)のチロシン残基と結合する部位が存在する. 抗TPO抗体の認識するTPO抗原決定基と, TPOのこれら酵素活性部位との関係を検討したところ, 少なくとも以下の4つの部位が, 自己抗体により認識されていることが判明した. (1)ヨードとの結合部位, (2)Tgのチロシン残基との結合部位, (3)ヨードおよびチロシン残基, 両者との結合に関連した部位, (4)これら基質との結合部とは離れた部位. 2.これらの部位に対する抗TPO抗体の特異性は, 患者間で不均一であった. 3.Tgのチロシン残基とTPOとの結合部位に対する自己抗体の検出頻度が高いことにより, TPOに対する自己免疫応答において, 同部位の抗原性が強いことが示唆された. 4.TPOとヨードの結合はヨード法で測定されるが, このヨード法で測定されるTPO酵素活性は, Tgのヨウ素化を触媒するTPO酵素活性を阻害することは, 自己抗体がTPOに結合することにより, Tgにおける甲状腺ホルモン合成を抑制することを強く示唆している. 5.TPOとTgが共通の抗原決定基を有することが, 単クローン性抗体を用いた実験により示された. この共通抗原決定基を, 自己抗体が認識していることが判明した. TPOとTgの一次構造が最近決定されたことにより, 次にこれらTPOとTgとの構造の比較などから, 橋本病の成因に関る自己抗原の抗原決定基を解明していく.
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