研究概要 |
造血器細胞の分子生物学的研究は大量の細胞を必要とするSouthen法やNorthern法で行われており, 細胞形態や免疫学的方法による個々の細胞レベルでの成果との比較検討には一定の限界がある. 本研究では個々の細胞レベルでの遺伝子発現の検出が可能なin situ hybridization法の開発及びその応用を目的とした. 本法の開発は, 癌遺伝子であるmye及びfms遺伝子に対するDNA probeを用い, 分化誘導物質であるTPA添加培養でそれらの遺伝子発現が既にNorthern法で明らかにされているヒト骨髄球系細胞株HL60の系で行った. probeの標識には放射線同位元素標識法とBiotin標識法の二法があるが, 前者では形態不鮮明でかつ手枝が繁雑であるため細胞や組織での研究には不向きであり, 主に後者による方法によった. probeのBiotin標識はNick translation法とPhoto-Biotin法があるが, 後者の方が良好かつ安定した標識probeが得られた. 本法が最も肝要かつ困難な点は作製細胞標本のRNAの保持, 細胞形態保持にあった. 既に報告されている酵素, 処理液の使用による標本処理でよいが, 実際にはその処理時間の差異が重要で, 標本作製後迅速かつ慎重な操作が必要である. 特に, hybridization後の反応物は洗浄液の濃度の差異により容易に剥離するためその防止には6xSSCを使用する必要がある. この方法ではTPA添加培養細胞は付着細胞自身と剥離洗浄後のcytospin標本いずれでも遺伝子産物が検出され, 従来の分子生物学的方法では困難であった形態との比較検討が可能であった. TPA添加培養細胞HL60ではm/c及びfms遺伝子転写がRNAdot法やNorthern法と同様in situ hybridization法でも確認されたが, 必ずしも全ての細胞に検出されたわけでなく, これら遺伝子発現の解析には本法による個々の細胞レベルでの検討が必要であることが明らかになった. さらに多くのprobeによる検討や, 本法と免疫学的方法による二重染色法の開発, 組織レベルでの検討も進めている.
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