研究概要 |
肺高血圧症の実験的作製を目的として左肺動脈を上行大動脈に吻合する実験を行った. 研究方法で呈示した独自の調節式肺動脈絞扼器具を用いて計23頭の仔犬に実験を行った. 実験犬の体重は6.0kgから11.0kgまでの平均7.9kgであった. 前回予備実験で得た結果にしたがい, 実験当日は調節式肺動脈絞扼器具により約60%に肺動脈を絞扼した. 以後約1週間毎に2〜4回にわけて70%, 80%, 90%, 100%と完全に肺動脈絞扼を解除した. 吻合した左肺動脈の周径は18mmから24mmで平均21.9mmであった. 23頭の実験犬中19頭の長期生存を得た. 他の4頭は肺血流量の急激な増加による肺出血で術後1日から3日の間に失った. 19頭の実験生存犬のうち術後2〜3ヵ月の間に肺動脈破裂で5頭が死亡した. 肺動脈破裂の原因として考案したバンドの材質が硬く絞扼部が裂けること(3頭), 吻合部の遠位部で絞扼するため吻合部に高い圧がかかり裂けること(2頭)があげられた. 長期生存の得られた14頭は実験後6ヵ月から18ヵ月後に屠殺し, 肺動脈圧を測定し肺の病理組織標本を作製した. 術前の肺動脈収縮期圧は12mmHgから28mmHg(平均19.6mmHg)であったが屠殺時の肺動脈収縮期圧は40mmHgから180mmHg(平均120mmHg)とほぼ満足のできる肺高血圧症を作製できた. 肺の病理組織標本は左右各肺葉毎に多数作製し, 染色はElastica-Masson法で行った. 19例の実験生存犬全例に左肺の肺血管病変の発生をみた. しかし, 右肺には特に変化を認めなかった. 肺血管病変の形態学的特徴は内膜細胞の増殖を認めるもの, 内膜の線維性増殖を認めるもの, 縦走平滑筋細胞の増殖を認めるもの, plexiform lesionを認めるもの, あのいはその混合型で通常plexogenic pulmonary arteriopathyと呼ばれるものであった. 現在その分析を急ぐとともに購入した拡大投影機(ビソパン)を使用して各例の肥厚した肺小動脈の厚さと半径を諏訪の方法で計測中である.
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