研究概要 |
目的:血管内膜損傷は通常同部の増殖性変化をもたらすが、脳動脈瘤においては増殖性変化よりも、退行変性優位となり血管壁の脆弱化、膨隆を来たすと考えられる。血液凝固第XIII因子は血液凝固のみならず、創傷治癒にも関与するとされており、今回脳動脈瘤発生過程がXIII因子によりどのように修飾されるかを動物モデルを用いて検討した。方法:一側総頸動脈結紮、両側腎動脈後枝結紮、1%食塩水及び0.2%βーaminopropionitrile fumarate負荷によるrat脳動脈瘤誘発モデルを作製し、処置1ケ月後よりXIII因子10i.u./100gB.W.を5日間連続投与し、1週間後に灌流固定を行った。非投与群を対照とし、脳動脈瘤性変化の好発部位である前大脳動脈ー嗅動脈分岐部の形態的変化につき比較検討した。結果:非投与群11匹中8匹に分岐部intimal patのdistal,ACA側に初期動脈瘤性変化を認め、残りの3匹では明らかな変化を認めなかった。投与群では20匹中12匹に初期動脈瘤変化に加えて同部に種々の程度の内膜肥厚増殖性変化を認めた。即ち、初期動脈瘤性変化を覆うような平滑筋細胞の増殖及びmatrixの増加から、更には動脈瘤となった内腔を埋めるような増殖性変化が認められた。残りの8匹は対応群と同様で明らかな増殖性変化は認められなかった。結論:我々がこれまで作成してきたrat脳動脈瘤誘発モデルでは動脈瘤初期病変から動脈瘤に至る種々の退行性変化を見るが、今回のような内膜肥厚増殖性変化は1例も観察されていない。以上から生体内においてXIII因子が血管壁の組織修復機構に関与している可能性が示唆されると共に、動脈瘤性病変部に対しても、その修復機能を捉進することにより、動脈瘤壁の肥厚性変化をもたらすことが確認された。
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