研究概要 |
絨毛性疾患時に産生されるヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)が正常妊娠時のそれと同一か否かについては古くから多くの研究がなされてきたが、直接的化学構造解析が行われなかったために、全く不明であった。我々は一例の絨毛癌患者尿中に含まれるhCGを抽出・精製し、その生物学的性格を調べたところ、正常妊娠尿hCGと大きく異なっていることを見出した(J.Endocrinol.Inveit 4,349,1981)。そこでその絨毛癌hCGの構造分析を行った結果、その変化はhCGの糖鎖構造変化に起因していることが明らかとなった(J.Biol.Chem.258,14126,1983)。さらに例数を増し、詳細な構造解析を行った結果、絨毛癌hCGのアスパラギン結合糖鎖には正常妊婦尿hCGでは全く認められない5種類もの異常糖鎖構造が調べた全例に共通して含まれていることが判明した(Gann.76,752,1985)。これらの原因は絨毛細胞の癌化に伴って各種の糖鎖転移酵素の活性変化や異所性発現が起るためと考えられるが、臨床的にはこれらの変化を指標とした絨毛癌診断への応用が期待された。そこで我々は先づこれら異常糖鎖構造に特異的なレクチンの応用を試み、RCA、PNA、DSAなどが有用であることを示し(J.J.Exp.Med.55,75,1985,Caneer Res.47,5242,1987)。さらにこれら糖鎖変化をhCGの分子量変化として観察し得た(Gann 78,833,1987)。他方、hCGを還元剤処理後、SDS電子泳動すると、βーsubunitペプチド鎖の一部が解離することが、hCGβやhCGβーCTPに対する抗体を用いたWestern blottingで明らかとなった(Gann 78,833,1987,Endocrinology 123,420,1988)。このようなβーsubunitの解離現象は正常妊婦尿hCGでもわずかに認められるものの、絨毛癌や侵入奇胎の患者尿hCGで極めて明瞭に観察されることから、本疾患診断への応用が可能であった(日産婦誌40,160,1988)。
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