研究概要 |
Ca摂取量の少ない国では,多い国に比べて高血圧症の発症頻度は少ないという報告がある。妊娠中毒症(以下中毒症)においても,Ca摂取が中毒症の発症予防の上から着目されてきている。この観点から今年度は沖縄県の食生活におけるCa摂取量の現況を調査し、一方妊婦の中毒症発症のハイリスク要因として遺伝的高血圧素質者(高血圧家系)、既往中毒症妊婦、本態性高血圧や慢性腎炎の合併患者を取り上げ、これらの妊婦にCa剤(200〜400mg、1.3mEq〜2.6mEq)を投与し、中毒症の発生率を対照群と比較した。さらに中毒症の高血圧発症の機序をCa代謝の面から動物実験によって解明しようと試みた。成績:1.沖縄県における食生活はCaを含む食品、とくに牛乳および乳製品、卵類は本土の摂取量とほぼ同程度に普及しており、海草類はより多く取り入れられている傾向がある、全体的には他県と比べて碍にCa摂取量が少ない傾向はみられなかった。2.ハイリスク要因のある妊婦に妊娠初期(妊娠16週)からCa剤を投与した群(12例)では同じハイリスク要因の無投与妊婦16例にし、中毒症の発症率はそれぞれ16.7%、33.3%であり、Ca剤投与が中毒症発症予防の有力手段と考えられた。3.血管平滑筋細胞膜のNa,K-ATPaseを抑制する内因性ウアバイン様物質が血液中に存在し、その増加によりCa^<++>濃度が上昇して、血管収縮性が増し血圧上昇を惹起するという仮説に基き、ラット胸部大動脈、イヌの腸間膜動脈の摘出標本を用いて、ウアバインのノルエピネフリン(NE)による血管収縮への影響、K^+濃度によるNa,K-ATPaseの抑制作用を検討すると、高濃度によるウアバイン存在下ではNEによる血管収縮は有意に増加し、K^+freeの状態に近づけるとウアバイン非存在下でも有意な血管収縮の増強が認められることから、高濃度ウアバイン存在下や細胞外液K^+濃度を低下させことによりNa,K-ATPaseを抑制することは血管収縮性をもたらすと考えられた。
|