研究概要 |
60〜61年度に我々が行った一般研究(B)により, 顔面神経が障害された時の初期膨化は7日目が最高となり, その後退消して14日目にはもとの径に戻ることが, またその中でも顔面神経の1/2以上の繊維が障害を受けた場合にのみ変性初期膨化が顔面神経管全体を占め, 顔面神経内圧が亢ずる事によって管内に存在する血管を圧迫し, 循環障害を来すと想像される状態が生ずることが判明した. 更に, 顔面神経内の圧を持続的に計測することに世界で初めて成功し, これが脳圧と連動して変化することもつきとめた. 本一般研究(C)では上記実験をもとに, 高浸透圧利尿剤を投与することによって顔面神経内圧を減じ, 顔面神経管内に存在する血管の循環障を来さない程度にまで抑えることができるか否かについて, 経口投与, 径静脈投与の2通りで検討を加えようとしたものである. 圧変化についてはWPI社のマイクロプレッシャーシステム900型を用いて追求した. 経口高浸透圧利尿剤としてメニエール病等に臨床的にも用いられているグリセロールを用い, モルモットの胃まで挿入したカテーテルを介して経口投与を模した実験を行ったところ, 脳圧に連動して顔面神経内圧も急速に低下し, 15〜20分で最低値に達した. また, 径静脈投与の実験では, 脳圧亢進時に急速に脳圧を下げる目的で臨床的に実際に用いられているマンニトールを用い, モルモットに静脈注射をしたのち経時的に圧変化を追った. マンニトール投与後, 脳圧と同期して同様の経過で顔面神経管内圧も低下し, 30〜35分で最低値を示した. 以上の実験より経口投与, 径静脈投与共に顔面神経内圧を減少させる効果があることが確認され, 顔面神経障害の初期膨化が起こっている段階である発症2週間の間に高浸透圧利尿剤を用いれば, 循環障害による悪循環を止めることが期待されるという結果を得た.
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