研究概要 |
癌の臨床的対応策は, 今日なお, 早期発見と早期治療である. 上顎癌の免疫学的研究に際し, 我々が実施計画の基本としたのは, 癌の早期発見や早期探知に応用出来る免疫学的方法の開発であった. 癌の免疫学的研究に際し, 最も重要な基礎作業の1つは, 癌関連抗原の分離と特異性の高い抗体の作製である. 我々は上顎扁平上皮癌(MSCC)を材料に, 等電点の差に着眼し, TAAを分離し抗体を作製したが, この研究に関する成果はすでに国内外の学会や論文として発表して来た. 今回報告する新たな知見や成果等は, 次の通りである. 即ち, 1)組織やスメア標本を対象に, 腫瘍マーカーによる扁平上皮癌の免疫組織学的診断に際し, 従来より共存するケラチンとの疑陽性反応が問題となっていたが, 我々が作製した抗ケラチン・モルモット血清の前処置によるMaskingで, 非特異反応を回避出来ることが証明された. (癌学会, 耳鼻咽喉科学会, 臨床免疫学会で発表)2)臨床応用の2つめは, 患者血清をサンプルとしたゼラチン粒子(GP)による血清学的診断法の確立である. 即ち, マレイミド処理したGPと抗SCCAAb(IgG)を結合させ, 1%GP-抗SCCAAb(IgG)を作製し, 各種癌患者血清や良性疾患および健常者血清を用い, U字型マイクロプレートによる凝集反応による血清学的簡易診断法を考案し検討を加えた. 陽性判定基準は健常者群の成績から4倍希釈以上とすると, 頭頸部癌の平均陽性率は68%であり, 肺SCCでは67%, 子宮頸部SCCでは75%, 同腺癌では20%弱の成績が得られたが, 各種良性疾患患者血清では10%台の陽性であった. 本法はSCC患者血清で陽性率が高く, 早期癌でもその傾向が得られ, しかも特別の器具・機材を必要とせず, 3時間で判定が可能であることから, 臨床応用が期待される. 本法は抗SCCAAbが多量に必要となることから, 今後抗SCCAAbの確保が必要となる.
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