研究概要 |
本研究は, 唾液中に含まれるラクトフェリン(LF)の生理的役割を解明し, ウ蝕の予防や歯周疾患の早期診断への適用を模索することを目的として企図されたものであり, 具体的には, ヒト唾液からLFを分離精製し, その性質を明らかにすることを課題としている. 今回の研究により, 筆者らは, 簡便で, しかも高収率にLFを分離精製する方法を考案した. まず, 採取した唾液をリン酸緩衝液(pH7)で希釈し, バッチ法でセルロースフオスフェートと混和し, 吸着したLFを食塩で溶出した. その後LFは, Sephacryl S-200によるゲル濾過およびカラムによる等電点分離によってほぼ完全に精製された. 精製LFの分子量は約76000, SDSゲル電気泳動法において同じ分子量に相当する単一のバンドが示されたことから, 一本のポリペプチドから成るモノマーであることが判った. 唾液LFの等電点はpH9.0〜10.2であり, 塩基性の糖蛋白質であった. 本物質は乳汁に含まれるLFと免疫化学的に同一であることが, 唾液LFの家兎抗体を用いて明確にされた. 唾液LFは, 精製状態において殆ど鉄フリーのアポ蛋白質であったことから, アポ型で存在する生理的意味の重要性が示唆された. 唾液LFが口腔内細菌に対して抗菌活性を示すと仮定すれば, LFの作用は, これら細菌の生育に必須の鉄分子をLFが奪うことによって発揮されると予測される. 一方, 鉄飽和LFを用いて鉄保持能を調べたところ, pH5ではLFの鉄保持能の7〜8割が維持されていたが, pH4以下では, その鉄保持能は殆ど失われていた. 同じ条件下で, 鉄移送蛋白質トランスフェリンの鉄保持能を検討したところpH5でその鉄保持能の殆どが失われていた. 現在, LF感受性菌におけるLFレセプターの同定を行うとともに, アポ型LFと鉄飽和LFの感受性菌に対する結合力の差異についても検討中である.
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