研究概要 |
本学に来院した顎関節症患者についてシロナソグラフを用いて顎運動経路(特に前頭断における開閉口路)を初診時・治療途中・治療後に計測した. この研究から, 開閉口路において基本的に三種類の運動パターンが存在する事が解った. 第一のパターンは, 最大開口時に患側顎関節の方向に偏位を示すもので, この直接的原因は, 患側顆頭の運動制限によるものである. この運動制限は関節円板の前方転位に伴なう機械的運動制限・関節部の運動痛に伴なう生体の意識的な防衛による制限・筋機能の低下又は不調和による制限等が推察される. 咬合調整やスプリント療法を施し, 顎関節部の疼痛が消退するに伴ない, この運動経路の異常が急速に改善し, 患側偏位が消失する事が解った. 第二のパターンは, 開閉口路がS状の経路をとるもので, この現象の直接的原因は, 患側顆頭の運動速度の乱れおよび両側顆頭の運動の不調和によるものと推察される. 患側顆頭の運動速度の乱れは, 関節円板の形態の不正や顆頭と円板の機能的位置関係の不正(特にon the disc, off the disc)等によるものと考えられる. 咬合治療に伴いS状の経路はしだいに改善して行くが, 特にスプリント療法によって咬合位が改善されると関節雑音と同様比較的早期に運動経路の不正が改善することが認められた. 症例は少ないものの第三のパターンは, 最大開口時に健側偏位を示すものである. この直接的原因は患側顆頭の可動域が異常に大きい場合か又は健側の関節が何らかの原因で運動制限がある場合である. 患側顆頭が異常に大きな運動をするのは関節靭帯が伸長している為と考えられる. 咬合治療により安定した咬合が長期得られればこれが改善されることが解った. この様に顎運動経路(特に前頭断における開閉口路)は顎関節筋症患者の関節の病態と非常な関連性を有している事が解り, 診断上も治療上にも大きな判断基準となる事が明らかとなった.
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