研究概要 |
従来から歯科診療従事者において, HBウイルスの感染症であるB型肝炎の感染率が高いことは広く知られており, この感染症に対する予防に関する研究も進んでいる. B型肝炎においては, その一部が肝硬変あるいは肝癌に移行することが知られており, 十分な注意を要する疾患であることはいうまでもないが, 最近になって, さらに予後不良なウイルス性疾患である後天性免疫不全症候群, すなわちAIDSが問題となってきた. このウイルスの感染経路がHBウイルスと類似していることから歯科診療においてもその予防を考えることが急務と思われる. 歯科診療において院外への感染経路の1つになり得ながら, しかも消毒が困難なものとして印象用材料があげられく 今回われわれは, これらのウイルスの消毒を目的とした印象剤の消毒方法についての検討を行った. 消毒用薬剤としては有効塩素濃度10000p.p.m.の次亜塩素酸ナトリウム溶液と2%緩衝化グルタルアルデヒド溶液を用いた. 印象用材料としては, シリコーン系印象としてキサンプレン, デリクロン, およびトシコンを用いた. 親水性印象材のうちインジェクション・タイプとしてはウルトラファイン(シリンジタイプ), サージデントおよびデントロイドを用い, トレー・タイプとしてはウルトラファイン(トレータイプ)およびアルギノプラストを用いた. 結果として, 消毒時間をWHOの勧告に従って1時間とするならば, シリコーン系印象材の3種すべてが実用的レベルで使用に耐えることが示され, また親水性印象材の中ではウルトラファインが消毒に耐え得ることが示唆された. しかし, 親水性印象材はその性質上, 血液あるいは浸出液等を包含しやすいため, 明らかにHBVあるいはHIVの感染が認められる場合あるいは感染が疑われる場合には, シリコーン系印象材を用いるべきであることが明らかになった.
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