研究概要 |
痛覚は他の感覚と異なり, 非常に主観的で心理的要素の強い感覚である. 被験者に対して痛み刺激を与える際, 被験者の心理を変化させつつ与えることにより, 同一強度の痛みでも感覚量に差が生じ, 痛みの容観的示標となる誘発電位波形にも変化がみられることを実証する目的で本研究に着手した. 研究の遂行および結果のあらましは次のとおりである. 1.本研究遂行のために不可欠な痛み刺激装置を日本光電社(株)とはかり, 約6ヵ月かけて製作した. 本装置はブザー音による痛み刺激予告機能が内臓され, その音量, 刺激強度, 刺激間隔などを任意に調節可能な, 過去に類をみないもので, 本装置に関する論文発表も予定している. 2.本装置を用い, 被検者の歯に電気刺激を与え, その際に頭皮上により得られる誘発電位を記録した. 被験者が主観的に判定する痛みの強さと, 誘発電位波形の変化に相関がみられ, 誘発電位が痛覚の容観的示標として活用できることが分った. 3.痛み刺激を被験者が予期できるように規則的に与えた場合と, 予期不可能なように不規則的に与えた場合とでは, 痛みの感じ方も誘発電位波形も後者の場合の方が大きかった. 4.不規則に痛みを与える場合, 痛みが加わる直前にブザー音で被験者に予告すると, 予告なしの場合より痛みの強さも誘発電位波形も小さかった. 5.3, 4と同様の操作を鎮静効果のある低濃度笑気ガスを被験者に吸入させつつ行なうと, 痛みに対する不安, 緊張がとれ, 刺激の与え方の違いによる, 3, 4のような差はみられなかった. 現在, 開発した刺激装置を用い, ブザー音を聞かせた直後に痛みを与えるよう条件づけた被験者を対象にブザー音のみで, 痛み刺激に対応する誘発電位と同様のものが得られるか検討中.
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