研究概要 |
液晶構造の特異性を有機反応に反映すべく以下の光反応及び熱反応例につき検討を行い、反応選択性の向上とその支配因子の解明を行った。 1、核酸塩基の一つであるウラシル誘導体(1,3,6ーtrimethylthymine etc.)の光二量化反応を液晶(n-butyl stearate etc.)中で試み、生成物分布と収率に与える液晶の特異性・選択性を精査した結果、高秩序度のスメクチック相下で、従来等方性溶媒や固相中では認められなかった高選択的・高収率の光二量化が認められた。即ち、生成可能な4つの異性体のうちtrans-anti二量体を90%前後の高選択性で、しかも高収率で得た。今後、これらのヌクレオシド及びヌクレオチド類の光二量化反応について検討を行う。 2、反応分子それ自体を液晶にし、モデル標的として液晶性親ジエン類(フマル酸コレステリル誘導体)を合成し、"機能性液晶"の開発を行った。その一部がシクロペンタジエン及びアントラセン類との熱環化反応に適した温度域を持つ光学活性液晶となることを見いだした。シクロペンタジエンとの熱環化反応を液晶相と等方性相との両相下で行い、付加体の不斉収率を目安として反応選択性を精査したところ、等方性相下での反応に於ては殆ど不斉選択性は認められなかったのに対し、液晶相下では不斉収率が10%にも達する有意の選択性が認められた。一方、2,6ーdimethoxyanthraceneとの液晶相での反応の場合、syn体とanti体の環化付加体のうち、syn体を60〜90%のジアステレオ過剰選択性で得た。又、この付加体のエナンチオ選択性についても検討を行う予定である。 以上、本研究課題の「液晶の特性を利用した高選択的反応の開発研究」のアプローチであるウラシル誘導体の光二量化及びDiels-Alder反応に於て従来、等方性溶媒や固相中では認められなかった高い選択性及び収率が得られた。
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