研究概要 |
生体内に存在する銅イオンの役割を明かにするために, 種々の銅(II)錯体と過酸化水素(H_2O_2)の反応によるラジカル生成の有無を新しく開発された水溶性スピントラップ試薬, 3.5-ジブロムー4-ニトロソベンゼンスルホネート(以下DBNBSと略)を用いて検討した. DBNBSは, 3.5-ジブロモスルファニル酸を酢酸中, H_2O_2で酸化することにより得られた(収率37%). 銅(II)錯体としてはCu(en)_2(en:エチレンジアミン), Cu(EDTA)(EDTA:エチレンジアミン四酢酸), Cu(DTPA)(DTPA:ジエチレントリアミン五酢酸), Cu(im)_2(im:イミダゾール), Cu(GG)_2(GG:グリシルグリシン)を用いた. Cu(en)_2の水溶液は典型的な4本線のESRシグナル(a^<cu>=87.7G, g=2.097)を示すが, これにH_2O_2を加えるとシグナルは消失し, Cu^<2+>がCu^+に還元されたことを示す. この反応系にあらかじめDBNBSを加えておいても何らシグナルは観測されなかった. しかし, この系にさらにジメチルスルホキシド(DMSO)を加えておくと, メチルラジカルがDBNBSにトラップされたラジカル種が観測された. DBNBSはOHラジカルとは安定な付加体を生成しない. また, OHラジカルによるDMSOの酸化によりメチルラジカルの生成することが知られている. したがってCu(en)_2とH_2O_2の反応では初期過程でOHラジカルが生成される. 同様のラジカル種は, Cu(im)_2, Cu(GG)でも観測されたが, Cu(EDTA)とCu(DTPA)では観測されなかった. しかし, ポリアミノカルボン酸錯体であるCu(EDTA)とCu(DTPA)ではあらかじめ反応系内に還元剤を加えておくと, 同様のメチルラジカル付加体が観測されたことから, これらの錯体では錯形成によりCu^<2+>の酸化還元電位が変化し, H_2O_2を酸化することができなくなり, 反応が進行しなかったものと推測される.
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