研究概要 |
抗腫瘍抗生物質ストレプトニグリンは種々のレトロウイルスに由来する逆転写酵素を選択的に障害するが, 一方で細胞毒性も高い. レトロウイルスに対する化学療法剤の開発を目的として, この抗生物質のC環カルボキシル基における各種アミド・エステル誘導体及び活性中心と考えられるA-B環に構造の類似するキノリンキノン, イソキノリンキノン誘導体の合成を行った(論文:大古瀬ら). 逆転写酵素に対する阻害のメカニズムはキノンによる酵素の酸化であり(大古瀬ら), 標的部位として酵素分子上の非触媒部位にキノンポケットの存在が推定された(祝ら). エイズウイルス(HIV)とトリ骨髄芽球症ウイスル(AMV)由来の逆転写酵素を比較したところ, いずれもストレプトニグリンやキノン誘導体に高い感受性を示した(武ら). これは逆転写酵素がその由来の如何に係らずキノンポケットを共有しているためと考えられ, エイズウイスルに対する化学療法剤開発へのヒントを与えるものと期待する. ストレプトニグリン及びその誘導体, 各種キノン誘導体のフレンド白血病ウイルス(FLV)に対するin vivoでの感染阻止活性を検討したところ, ストレプトニグリンにはそのエステル誘導体に比べてやや広い有効領域が認められた(中村ら). ヒトレプトニグリンの治療効果はウイルス感染直後に開始しても4日後から開始しても変わらず, ウイルス遺伝子の宿主DNAへの組み込みのみならず, 既に感染の成立したウイルスの増殖をも阻害しているものと考えられる. これに対して, in vitroで細胞毒性の低いストレプトニグリンのアミド誘導体は抗ウイルス活性も副作用も認めず, これは体内での分解, 排泄によるものと考えられる. 一般にキノン誘導体は溶解性に問題があり, 水溶性を高めるべく置換基の導入などを検討している.
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