研究概要 |
我々は, 動脈硬化症時に動脈壁にコレステロールエステルが蓄積してくる機構を生化学的, 形態学的な方法を用いて解析してきた. すなわち, 血中から透過してきたリポタン白は, 動脈壁内細胞に取り込まれ, ライソソームで分解を受ける. Acid lipaseの活性低下などに伴って, ライソソームにコレステロールエステルの蓄積が起ってくることを指摘してきた. さらに, 血中由来のリポタン白がどのように動脈壁に流入するかという問題を解析する必要がある. 本研究は, 培養内皮細胞を用いて物質透過モデルを作製し, 内皮細胞の輸送機構を分子レベルで解析する系を作製した. この新しいシステムを用いて, LDL(low dennity lipoprotein)とFD(fluorescein dextran)の培養内皮細胞層に対する透過性につき検討してみたところ, 以下の知見が得られた. LDLの場合には分子量はおよそ1,000K〜1,500Kであるにもかかわらず, その約0.5〜0.7%に透過性を認めるのに反し, FDでは分子量がその約1/10である150KDにもかかわらず, その透過性はLDLの透過性より小さいことが認められた. さらに, LDLの透過性は温度に依存的で, しかもエネルギーに依存的であるのに反して, FDの場合には温度に依存していない. また, LDLは容量曲線に飽和性をみるのに反して, FDの場合には直線的であることも両者の間に大きく異なっている知見である. 以上の知見より, LDLは細胞内を経由する, いわゆるtrans cytosisにより透過している可能性が高く, 一方, FDは細胞間隙を主に通過する, いわゆるjunctional transportにより透過している可能性が高い. 今後, 我々の作製した新しいin vitroでの透過機構を応用することにより, 病態時におけるリポタン白質をはじめとする生理活性物質の透過機構につき解析できるものと期待される.
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