研究概要 |
二核カルボン酸銅(II),〔Cu(R_3×CO_2)_2L〕_2,は2個の銅原子を4本のカルボキシル基が架橋したかご形構造をとり、反強磁性的なスピン交換相互作用が存在する。その相互作用の強さは一重頂と三重頂状態のエネルギ-差、ー2Jで測る事ができる。架橋カルボキシル基に結合している原子XがH、C、Siのときのー2J値はそれぞれ約500,300,1000cm^<ー1>であり、これが何に起因しているのか不明であった。そこで本研究ではギ酸および酢酸銅の構造比較を詳細に行い、中心部分のかご形構造には重要な違いはない事を明らかにした。特にCu…Cu距離をはじめとしてCuーO結合距離とー2Jとには相関がない事を確認した。幾何構造に差がなければ電子構造に原因があると考え、カルボン酸部分の分子軌道計算を行い電子の軌道占有率を比較した。その結果、酢酸に比べてギ酸イオンの方がカルボキシル基の炭素のCーX方向の2P軌道の占有率が高い事がわかった。その他のカルボン酸についても同様な計算を行ったところ、OCO部分に存在する電子数が多い程、スピン交換相互作用が強くなる事が判明した。ただし、X=Siになると異常にー2Jが大きくなる事から、この系では特別な機構が働いている事が予想される。なお、X=CおよびSiの錯体の構造比較を行ったところ幾何構造に相違点は見い出せなかった。以上述べて来た二核錯体はいずれも銅原子のまわりの配位環境が四角錐形だが、トリクロロ酢酸銅については三角両錐形のものも存在する事がesrスペクトルから予想されていた。そこでX線結晶構造解析を行い、この予測が正しい事を示した。さらに磁性と構造とに明確な相関がある事を見い出した。すなわち、銅まわりの配位環境が四角錐形から三角両錐形に歪む程、スピン交換相互作用が弱くなる。これはdz^2軌道に局在するスピン密度が、架橋を通して伝わりにくくなるためと解釈される。
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