研究概要 |
本研究の目的は, 増殖制御機構のキー・ポイントである細胞膜上での増殖刺激と, その受容体からの情報伝達, および核での遺伝子DNAの複製開始の2点について, そこに関わる遺伝子およびその産物を同定し, 現在, ブラックボックスになっているこの2点の間を埋めていくことにある. そこで, マウスFM3AおよびSwiss3T3細胞の各種変異株を中心に解析した. 1.増殖因子に対する要求性の異なる変異株の分離:Swiss3T3細胞に変異源を作用させ, 0.2%血清存在下, インスリンのみで増殖可能な変異株, ホルボールジブチレート(PDBu)のみで増殖可能な変異株を分離した. 2.増殖因子に対する要求性の異なる変異株の解析:インスリン単独で増殖可能な変異株では血清非存在下, EGF単独でDNA合成が誘導でき, この誘導は百日咳毒素(IAP)に感受性であった. またこの誘導はPDBuでも阻害され, この系ではCキナーゼが阻害的に働くことが示唆された. 一方, PDBu単独で増殖する変異株ではこのような現象は観察されなかった. 3.DNA複製開始に欠陥をもつ温度感受性(ts)変異株の分離と同定:FM3A細胞より新たに分離した変異株, tsFT5は高温でDNA合成が低下する性質をもつS期変異株である. これまでに当教室で得られているts変異株と相補性試験を行なった結果, G2期変異株として同定されているts85細胞と同じ相補性群に属することが明らかとなった. tsFT5の特徴は, 高温でDNA合成の低下にやや先立ってヒストンuH2Aの消失がみられることである. 培養温度を高温から低温にシフトすると, DNA合成の再開に先立ってuH2Aが現れた. DNA複製開始にはクロマチンの脱凝縮が必要と考えられ, そこでのヒストンH2Aのユビキチン化の関与が示唆される. 今後, これらの変異株より抑制変異株の分離や変異遺伝子の同定を行ない解析を進めたい.
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