研究概要 |
ペプチジルアルギニンデイミナーゼ(PAD)による蛋白質アルギニン残基のシトルリン残基への脱イミノ化の機能的意義を伺い知るため, PADとその反応産物の組織分布, 変動要因, 組織内局在性などを検討した. 若齢雄ウイスターラットでは骨格筋, 脊髄, 顎下腺, 脳に明瞭な活性が認められた. ウサギ抗骨格筋PAD抗体を用いた免疫生化学的手法により, これらの組織中の活性は全て同一分子種によることがわかった. 毛〓, 表皮に存在する活性は, これとは抗原性, 基質特異性の点で識別できることから哺乳類には少なくとも3種のPADが存在すると推察された. 大脳, 小脳, 骨格筋, 脊髄のPAD活性は幼若期から若齢期にかけて急速に上昇し, 同時に免疫化学的方法で検出される酸素の実量も増加した. しかるに, これらの組織蛋白質中に存在するシトルリンは, 総アミノ酸残基量の0.01%以下で有意な定量値が得られなかった. これは組織中でPADが通常不活性に保たれているか, 反応しても生成物が素早く代謝されているためであろう. 組織分布検討途上でPADが下垂体において著しい性差を示すことが見つかった. 即ち, 幼若期では雌雄とも活性が低いが, 成熟にともなって雌特異的に活性の上昇が認められた. 成熟雌ラットでは発情前期, 発情期に活性が高く, 発情後期, 休止期では低かった. また, 卵巣摘出によって活性, 酸素の実量とも激減したが, エストロジェン投与によって部分的に回復した. これらの結果は, 下垂体におけるPAD活性の調節にエストロジエンの関与を示唆しており, 今後のPADの機能の研究に有用な手掛かりと思われる. 免疫組織化学的には, 下垂体前葉の多数の細胞が抗PAD抗体で濃染された. これらのホルモン産生能を調べるため, 標本作成条件の至適化を試みている. また, 徳島大学の浦野らとの共同研究により, ヒト汗腺分泌細胞中の骨格筋型PADの存在を明らかにした.
|